小型ポータブル機器のエネルギー管理

2009年08月11日

要約

このアプリケーションノートは、4セルまたは3セルのバッテリシステムを備えたポータブルアプリケーション用の電源管理方式について説明します。ステップアップ/ダウンコンバータ、リニアレギュレータ、電圧コンバータ、チャージポンプ、およびインダクタレスレギュレータの最適な設計と使用方法について書かれています。マキシムの電源管理デバイスがいくつか使われています。

小型携帯機器の設計には、互いに矛盾するような制限がいくつも生じることがあります。サイズと重量という当然の制限に加えて、コスト制限や厳しいタイムスケジュール、時間単位でなく週単位で要求されるバッテリ寿命、電源管理の要求のためにホストコンピュータにかかる過剰負荷等の制限があります。

携帯用アプリケーションに要求される電源条件は、製品の使用目的によって異なるため、全てのアプリケーションに対応した「最適の」電源というものはありません。使用頻度の少ないデバイスでは最大負荷時での効率よりも無負荷時の自己消費電流が重要なため、アルカリバッテリで十分に動作します。しかし、携帯電話等では高ピーク負荷と頻繁な使用に対応しなければなりません。こうした動作では自己消費電流よりも変換効率が重要となるため、携帯電話には充電式バッテリの方が適しています。

携帯機器の場合、サイズの制限のために設計の初期段階でバッテリのセル数が決まることが多く、エンジニアにとってはこれが頭痛の種になります。なぜならセル数(および種類)が決まると動作電圧範囲が決まってしまい、そのため使用できる電源のコストと性能が決まってしまうからです。セル数が多いと、リニアレギュレータが使用でき回路が単純になる半面、重量増加および効率低下という短所が出てきます。セル数が少ないと高コストのスイッチングレギュレータを使用する必要がありますが、その反面低コストのバッテリを使えるという長所があります。

4セル設計

4セルのバッテリ設計は、重量と動作寿命の間の適切なトレードオフを提供します。特にアルカリバッテリの場合は4個パックで販売されていることが多いため、4セル設計が普及しています。しかし、4セル電源を5V回路用に使用するというのは設計者にとってチャレンジになります。レギュレータはバッテリが放電するに従い、最初はステップダウンしなければならず、そして最後にはステップアップする必要があるからです。このために、ステップダウン、ステップアップ、または反転をするだけの単純な単機能レギュレータは使用できません。

この問題に対する効果的な解決法の一つはシングルエンド一次インダクタンスコンバータ(SEPIC)です。ここで、VOUTはスイッチング回路に容量結合されます(図1)。この構成は、フライバックトランス・レギュレータやステップアップ/リニアレギュレータに比べていくつか利点がありますが、トランスが不要というのもその利点の1つです。

図1. このレギュレータトポロジーは、ステップアップコントローラMAX1771を特長としています。3V~8Vの入力から5Vを供給します。ステップアップ変換とステップダウン変換は、ステップ変化やモード変化が生じることなくスムーズに切り換わります。シャットダウン時に出力は完全にオフになり、電流が流れだしません。

図1. このレギュレータトポロジーは、ステップアップコントローラMAX1771を特長としています。3V~8Vの入力から5Vを供給します。ステップアップ変換とステップダウン変換は、ステップ変化やモード変化が生じることなくスムーズに切り換わります。シャットダウン時に出力は完全にオフになり、電流が流れ出しません。

ブースト設計では、カットオフスイッチを追加しない限りシャットダウン時にもバッテリから電流が流れ出します(図2参照)。これに対してSEPIC回路のもう一つの利点は、シャットダウン時には出力が完全にオフになることです。通常動作中にVINが低下した場合、SEPIC回路では、VOUTがVINに接近しても動作モードを変更することなくVOUTをスムーズに安定化させることができます。電力変換効率は、200mA付近で最高の86%に達します(図1)。

図2. 一般的なDC-DCブーストコンバータでは、パワーダウン時にも入力から出力への電流経路が存在します。この経路を切るには切断スイッチ(Q2)を追加する必要があります。

図2. 一般的なDC-DCブーストコンバータでは、パワーダウン時にも入力から出力への電流経路が存在します。この経路を切るには切断スイッチ(Q2)を追加する必要があります。

コイルL1とL2 (図1)は、同じタイプで同じL値にしますが、相互のカップリングは必要ありません。同じコアに両方巻いても構いませんが、完全に分離していても回路は同様に動作します。ピークスイッチング電流(IPEAK = 100mV/R1 = 1.22A)の半分だけが各コイルに流れるため、それに適合した定格品で十分です。

コンデンサC2はエネルギーを出力に結合するため、大きなリップル電流に対応できるように等価直列抵抗(ESR)が低くなければなりません。例えば、ESRの低いSANYO® OS-CONコンデンサを使用すると、安い1µFセラミックコンデンサに比べて効率が3%向上します。タンタルコンデンサはESRが高いためにハイリップル電流時に自己発熱することになり、お勧めできません。

ダイオードD2は、Q1のドレインでスイッチングパルスを整流することによってIC (ピン2)に電源電圧を供給します。この電圧(約VINとVOUTの和)のために、最大VINは8Vまでに制限されますが、外部MOSFETへのゲート電圧が高められるため、低VINにおける効率が向上し、最大負荷時でのスタートアップ能力が改善されます。VINが4V以下に落ちることがない場合は、Q1を3VスレッショルドのFETで置き換え、D2を省略することができます。この場合、ピン2は直接VINに接続し、VINの上限は16.5Vとなります。

3セルから3.3V出力

3セル設計では、パワーMOSFET内蔵の高効率ステップアップ/ダウンレギュレータMAX8625Aは、3.3Vで最大0.8Aの出力能力を提供します。このデバイスは、ICがディセーブルされた場合に入力から出力を切断するTrue Shutdown™機能を備えています。4つの内部MOSFET (2つのスイッチと2つの同期整流器)と内部補償で、図3の回路は外付け部品数を最小限にします。

図3. 標準アプリケーション回路(3.3V固定出力)

図3. 標準アプリケーション回路(3.3V固定出力)

低ドロップアウトのステップダウンコンバータ

3.3V駆動等の低電圧ロジックの場合は、4セル入力で単純なステップダウン構成が可能なため、効率とコストを最適化することができます。3.3V出力ではドロップアウト電圧(VINとVOUTの間の最低許容電圧差)の仕様が重要です。バッテリの「寿命末期」の電圧はセルの種類および製品の使用パターンによって違っていますが、リチウムバッテリ以外のバッテリではセル当り0.8V~1Vの範囲です。このため、3.6Vという低入力電圧で3.3Vレギュレータが動作することも珍しくありません。

図4の設計は、4セルから中電流負荷で3.3Vを供給するシンプルな方法を提供します。ICは低スレッショルドのpチャネルMOSFETを駆動し、電流検出電圧が110mVと低くなっているため、電流検出損失は最小限に抑えられています。性能を最適化するために、MOSFETのオン抵抗は回路の最低動作電圧(この場合約3.6V)に合わせて選択してください。

図4. 低ドロップアウトのスイッチモードコントローラ(MAX1651)とpチャネルMOSFETが3.8Vの低入力電圧から3.3V、1.5Aを供給します。動作範囲の大部分で効率は90%を超えています。

図4. 低ドロップアウトのスイッチモードコントローラ(MAX1651)とpチャネルMOSFETが3.8Vの低入力電圧から3.3V、1.5Aを供給します。動作範囲の大部分で効率は90%を超えています。

リニアレギュレータ

リニアレギュレータの効率とバッテリ寿命が許容でき、VINが高い時における電力消費への対応が可能な限り、(レギュレータが全くない)多くのステップダウンアプリケーションの中では、リニアレギュレーションを使用することが最も経済的な方法です。

ポータブル機器の設計では、単純なリニアレギュレータでも一筋縄では行かない場合があります。例えば、ドロップアウト電圧(出力安定性が失われる低VINレベル)は障害ではなく正常動作の一部と見なすべき場合がしばしばあります。つまり、動作時間を延長するために、レギュレータが安定化範囲内から外れてもシャットダウンしない方が良い場合があります。こうした設計ではドロップアウト時のレギュレータの挙動(特に自己消費電流)が重要になります。

図5のシンプルなリニアレギュレータは、動作電流にあまり影響を与えることなく優れたドロップアウト挙動を示します。実質的には8ピンの表面実装パッケージ1個で、400mA以上を出力することができます。内部パス素子がバイポーラトランジスタでなくMOSFETのため、軽負荷におけるこの回路のドロップアウト電圧は殆どゼロです。また、VINがVOUTに近づいても自己消費電流は増加しません。

図5. 内部MOSFETパストランジスタとハイパワー8ピンSOパッケージの組み合わせによって、低ドロップアウト、15µAの動作電流、および400mA以上の出力を備えたリニアレギュレータ(MAX604)が実現されています。

図5. 内部MOSFETパストランジスタとハイパワー8ピンSOパッケージの組み合わせによって、低ドロップアウト、15µAの動作電流、および400mA以上の出力を備えたリニアレギュレータ(MAX604)が実現されています。

この特性は、安定状態の負荷が100µAを越えない小型ポータブル機器で特に重要です。こうした設計では、バイポーラのパストランジスタを内蔵した低ドロップアウトレギュレータが通常そうであるように、自己消費電流が数ミリアンペア以上に増加すると、バッテリの寿命が尽きかける一番苦しいときに放電を加速してしまいます。図5のICは、ドロップアウト状態であってもなくても15µA (typ)の電流しか消費しません。

バッテリのセル数が少ない場合の昇圧

古い世代の設計ではバッテリのセル数が多くなっていました。これは供給エネルギーを増やすためではなく、低コストのリニアレギュレータ(あるいはレギュレータなし)でシステム電圧を発生するためでした。しかし、最新の電圧変換ICは最小限の外付部品を用いるだけでセル数を削減できるようになっています。セル数の削減による利益(小型化、軽量化、そしてときにはバッテリ寿命の延長)の方が余分にかかるコストよりも大きいのが通常です。例えば、2個の単三電池の利用可能エネルギーは4.5Whrで、これとサイズと重量が同等な6セルの9Vアルカリ電池1個のエネルギーは3Whrと、前者は後者を50%上回っています。

図6aに示すステップアップレギュレータは、2セルおよび1セル入力で88%の高効率を提供します。また、スイッチング周波数が500kHzと高いため、超小型のインダクタを使うことができます。このICの自己消費電流は、軽負荷時または無負荷時には僅か60µAです。この特長は、製品が「オフ」時でも電源電圧がアクティブであることを必要とするポータブル製品に適しています。製品がアイドル(サスペンド)モードに入ったときは、負荷電流はマイクロアンペアのレベルまで低下してしまうため、レギュレータICがその大部分を消費してしまうようでは困ります。完全にシャットダウンする機器の場合、このICは1µA以下の電流を消費するだけの超低電流シャットダウンモードを提供します。

1セル・レギュレータ

サイズが最も重要な要因である場合は、1セルバッテリによる駆動が適しています。今日では1V以下の入力でも適度の効率とコストが実現できるため、多くのハンドヘルドアプリケーションが1セル動作の対象になっています。低コストICのスイッチング周波数は1MHz近くになっているため、複数のメーカーが供給している小型磁性部品を使用することができます。このためDC-DC回路でバッテリを置き換えた場合、バッテリよりもその回路の方がスペースが小さくなることも珍しくありません。

図6aの破線の枠内のQ1とQ2を追加することにより、低入力電圧、重負荷電流でこのレギュレータをスタートすることができます。また、Q1はシャットダウン中に負荷とバッテリの間の接続を切断します。内蔵コンパレータの働きによって、Q1はVOUTが少なくとも3Vまで上昇するまでは再びオンになりません。図6bには、この回路の負荷状態でのスタートアップ能力、およびスタートアップ電圧(typ)が0.8Vと著しく低いことが示されています。

図6. この低電力CMOSステップアップコンバータ(MAX856) (a)は、1セルまたは2セルの入力から3.3Vを発生します。オプションの負荷切断回路(破線部)を付ければ、0.8Vの低入力で回路をスタートすることができます(b)。

図6. この低電力CMOSステップアップコンバータ(MAX856) (a)は、1セルまたは2セルの入力から3.3Vを発生します。オプションの負荷切断回路(破線部)を付ければ、0.8Vの低入力で回路をスタートすることができます(b)。

図7には、(一度スタートすると) 0.7Vまで動作し、スタートアップ電圧が0.9Vのハイパワー高効率ステップアップレギュレータも示しています。出力は、5V固定または可変ステップアップ(2.5V~5.5V)で、最大1.5Aの電流を供給可能です。

MAX1703は、16ピンナローSOパッケージで提供され、パワーグッドまたはローバッテリ警告出力を生成する独立したコンパレータを備えています。

図7. ハイパワーパルス幅変調(PWM)モードのMAX1703

図7. ハイパワーパルス幅変調(PWM)モードのMAX1703

省スペースに最適なインダクタレス変換

インダクタ式のスイッチングレギュレータはかなり進歩したにも拘わらず、設計者はインダクタのない変換回路を今でも理想と考えています。代替方式としてのコンデンサ式(チャージポンプコンバータ)は、安定化能力がなく、しかも出力電流が限られているといった問題をこれまで抱えていました。しかし、チャージポンプの出力電流は、スイッチングレギュレータに比べてまだ低いとはいうものの、多くの設計に使用できるレベルにまで達しています。また、低コスト、小型、低電磁妨害(EMI)というチャージポンプの利点が用途によっては有利に働きます。チャージポンプは、部品の高さが制限されるPCMCIA (Personal Computer Memory Card International Association)システム等、「クレジットカード」製品のアプリケーションでは特に重要です。

図8、図9、図10にインダクタが不要な電圧コンバータを3種類に示します。図8は、2セルバッテリ等の低電圧源の出力を5V ±4%の安定化電圧に変換します。このICは入力電圧に従って動作モードが変化します。低VINではトリプラ、高VINではダブラ、中間域では各スイッチングサイクルでモードを変えるトリプラ・ダブラです。効率は65%~85%の範囲です。消費電流が低いため(無負荷動作状態で75µA (typ)、シャットダウン時に1µA (typ))、この回路はDRAMやPSRAM (疑似スタティックRAM)用のコインセル駆動のバックアップ電源に適しています。

図8. 数個の外付コンデンサを取り付けるだけで、MAX619は2セルまたは3セル入力を5Vまで昇圧し、自己消費電流がわずか75µA で50mA (3V入力の場合)を供給します。またSOT23パッケージのデュアルダイオードと2個のコンデンサを追加すれば、小さなマイナス出力も発生可能です。

図8. 数個の外付コンデンサを取り付けるだけで、MAX619は2セルまたは3セル入力を5Vまで昇圧し、自己消費電流がわずか75µA で50mA (3V入力の場合)を供給します。またSOT23パッケージのデュアルダイオードと2個のコンデンサを追加すれば、小さなマイナス出力も発生可能です。

図8のオプションのダイオード・コンデンサネットワークは、-1.4V~-3Vの非安定化マイナス電圧を発生します。この出力はマイナス電源の役割を果たすことで、低コストのオペアンプが使用できるため、アナログ設計が簡単になります。マイナス電源電圧が供給できるため、オペアンプが完全にグランドまでスイングします。

もう一つのチャージポンプ回路は、ボード面積が0.6cm2 (0.1in2)以下で、5Vをフラッシュメモリチップのプログラミングに必要な12Vレベルに変換します(図9)。PCMCIAカードで一般的なフラッシュメモリは、省スペースで不揮発性記憶大容量を実現でき、また読み書き時にだけ電力を必要とするため、小型ポータブルアプリケーション用に普及しています。フラッシュICによっては5V動作のものもありますが、メモリ密度の高いものはプログラミングに12Vを必要とします。

図9. この回路(MAX662A)は、インダクタを使わず、フラッシュメモリのプログラミング用に12V/30mAの安定化プログラミング電圧を発生します。この回路は小さいのでクレジットカード大のスマートカードに納まります。

図9. この回路(MAX662A)は、インダクタを使わず、フラッシュメモリのプログラミング用に12V/30mAの安定化プログラミング電圧を発生します。この回路は小さいのでクレジットカード大のスマートカードに納まります。

チャージポンプを用いた第三のアプリケーションは、携帯電話等の音声/データ無線トランシーバのRFトランスミッタの効率を最適化することです。トランシーバの「トークタイム」を拡張するために、バイポーラトランジスタよりも効率の良いガリウム砒素FET (GaAsFET)のパワーアンプが使用されています。

GaAsFETは高効率の反面、コストも高く、またマイナスの小さなバイアス電圧を必要とします。通常のチャージポンプをこのアプリケーションに用いるのはノイズが大きすぎて不適切ですが、図10のチップの出力電圧レギュレータでは、出力ノイズとリップルが1mVP-Pに抑えられています。FB端子をグランドに接続すると、安定化出力が-4.1Vに設定されます。(外付抵抗を2個使えば他の出力レベルも設定することができます。)図8と図9の回路ではチャージポンプのスイッチング動作をゲートすることによって安定化がなされるのに対して、この回路では安定化と低ノイズは出力リニアレギュレータの働きによって実現されています。

図10. 高効率のGaAsFET RFパワーアンプのバイアス用に設計されたこのチャージポンプ電圧インバータ(MAX850)には、出力リップルとノイズを1mVP-P以下に抑制した極めて静かなリニアレギュレータが内蔵されています。

図10. 高効率のGaAsFET RFパワーアンプのバイアス用に設計されたこのチャージポンプ電圧インバータ(MAX850)には、出力リップルとノイズを1mVP-P以下に抑制した極めて静かなリニアレギュレータが内蔵されています。

断続的な高電流負荷

ハンドヘルドワイヤレス設計における第二の必要条件は、突然の負荷変化に対する迅速な応答です。こうした電源は殆どの時は数ミリアンペアレベルでアイドル状態にありますが、短いRF送信やバースト的なCPU動作に対応するために短時間だけ高振幅の電流を供給することが必要となります。GSM携帯電話等のTDMA (時分割多元接続)技術を用いたディジタルワイヤレス機器のRFトランスミッタでは要求が特に厳しくなっています。

携帯電話のハンドセットには小型、軽量という点で3セルのニカド電池が適しています。携帯電話用の一番低コストのRFトランスミッタは約6Vで動作します。設計者のなかには、6Vで2Wの電力を供給できるスイッチングレギュレータはコストがかかり過ぎるため5セルバッテリを使わなければならないと思われる人がいるかもしれません。しかし高電流は10%のデューティサイクルで約600µsだけ必要なため、小型のステップアップICで必要負荷に十分対応することができます。

図11の出力コンデンサは、TDMAロジックとRF回路の両方を駆動します。コンデンサが供給するのは平均すれば200mAだけですが、1.5Aを577µs出力した後の出力ドロップは僅か500mV以下です。1Ωの抵抗(R1)がRF負荷とDC-DCコンバータをアイソレートしています。4 個の470µFコンデンサはハンドヘルド機器のバッファ容量としては相当大きいものですが、それでも表面実装コンデンサ4個はバッテリを2セル追加することに比べるとずっと小さく、低コストです。この回路の平均電力変換効率は80%、自己消費電流は僅か60µAです。

図11. この回路は、ステップアップコンバータMAX757を特長としており、GSM携帯電話に1.5Aのトランジェント負荷を供給できる大容量コンデンサを含んでいます。平均負荷は僅か200mAのため、この8ピン表面実装ブーストレギュレータICは外部MOSFETを必要としません。

図11. この回路は、ステップアップコンバータMAX757を特長としており、GSM携帯電話に1.5Aのトランジェント負荷を供給できる大容量コンデンサを備えています。平均負荷は僅か200mAのため、この8ピン表面実装ブーストレギュレータICは外部MOSFETを必要としません。

LCDバイアス電源

ポータブル機器のLCDパネルのバイアスに必要な電圧と電流は、ディスプレイの技術、画面サイズおよびコストによって様々です。バイアス電圧はプラス、またはマイナスで最大でも±30Vです。例えば、図12のブーストコンバータは20V~30Vの範囲の出力を発生し、電圧はディジタル制御あるいは外部ポテンショメータによって調整されます。この回路はスイッチング周波数が高く、インダクタの電流制限が調整可能なため、小型の表面実装インダクタと出力フィルタコンデンサを使用することができます。例えば、負荷が10mA以下の場合、高さがわずか2.6mmのMurata-Erie LQH4コイル(図参照)を利用することができます。

図12. この回路はLCDパネル用のバイアス(コントラスト)電圧を発生します。バイアス電圧は、ポテンショメータで調節、または4ビット DACでディジタル調節することができます。

図12. この回路はLCDパネル用のバイアス(コントラスト)電圧を発生します。バイアス電圧は、ポテンショメータで調節、または4ビット DACでディジタル調節することができます。

ポテンショメータの構成は任意ではありません(図12のオプション回路を参照)。FBとVOUT間でなく、FBとグランドの間にポテンショメータを接続することによって、オープンまたはノイズの多いポテンショメータのワイパーが、最大(破壊的)出力ではなく低出力電圧を発生するようにします。さらに、ポテンショメータとワイパーをグランドに接続することによってFBでのトレース面積が最小限になります。R8とR9を交換するとVOUTノイズは増加します。

2または3セルのアプリケーションでは、ICをバッテリ電圧でなく、(もし可能ならば) 5Vでバイアスすることにより効率を最適化することができます。インダクタへはバッテリから電流が流れますが、チップのV+ピンに高い電圧が印加されるとQ1へのゲート駆動電圧が高くなってオン抵抗が低下するため、効率がよくなります。バッテリ電圧が5Vを超える場合はV+を直接バッテリに接続してください。VOUTは、4ビット、3.3VのCMOSディジタルコードあるいは図中のオプションのポテンショメータで調節可能です。

多出力電源

ポータブル設計では多くの場合複数の電源電圧が必要になります。ICメーカーは標準の3.3Vと5V駆動の機能を加えるようになっていますが、それでも性能、重量、バッテリ寿命、コストを最適化するために他の電圧が加えられてしまいます。しかし多出力ICを使えば、こうした追加電圧を生成するために必要な部品点数を最小限に抑えることができます。これらのICは、ボード面積を削減すると共に必要な「周辺」部品点数を最小限に減らし、システムの軽負荷効率と性能パラメータを改善します。

薄型TSSOPパッケージのトリプル出力DC-DCコンバータMAX1748/MAX8726は、アクティブマトリックス、薄膜トランジスタ(TFT)液晶ディスプレイ(LCD)に必要な安定化電圧を提供します。これらのデバイスは入力電源電圧2.7V~5Vを3つの独立した出力電圧に変換します。1つはハイパワーDC-DCコンバータ(最大13V出力)で、あと2つは独立して1つのプラス出力(最大+40V)および1つのマイナス出力(最小-40V)を制御する低電力チャージポンプです。

図13. MAX1748/MAX8726は、3つのアルカリセルまたは1つのシングルリチウムイオン(Li+)セルから3つの独立した出力を生成します。

図13. MAX1748/MAX8726は、3つのアルカリセルまたは1つのシングルリチウムイオン(Li+)セルから3つの独立した出力を生成します。

シンプルなバッテリ充電

小型ハンドヘルド製品の場合、スペースの不足と予算面の制約から、高度なバッテリ監視・充電方式を採用することはできません。こうした場合には高集積のスタンドアロンチャージャを活用することで最大限の性能を引き出すことが目標になります。

MAX846Aは、省スペース16ピンQSOPパッケージの、省コスト、マルチバッテリ対応のバッテリチャージャシステムです。この高集積システムによって、単一回路を使って異なる種類のバッテリ(リチウムイオン、ニッケル水素、またはニカドセル)を充電することができます。

最もシンプルなアプリケーションではMAX846Aは、リチウムイオンセルを充電する、スタンドアロン(図14)、電流制限フロート電圧源です。低コストマイクロコントローラ(µC)と組み合わせて、リチウムイオン、ニッケル水素、およびニカドセルを充電可能なユニバーサルなチャージャを作成することができます。

図14. スタンドアロンリチウムイオンチャージャMAX846A

図14. スタンドアロンリチウムイオンチャージャMAX846A

USBは、すべてのタイプの低電力電子機器(多くがバッテリ駆動)用の電源として利用される可能性があります。USBは普及しているため、バッテリ充電設計に独自の機会を提供しつつ、困難も伴います。多くのチャージャは容易に入手可能であるためUSB設計が簡単になります。例えば、MAX8856 (図15)はUSBポートまたはACアダプタのいずれかで動作する完全1セルLi+バッテリ充電管理ICです。このデバイスは、バッテリ切断スイッチ、電流検出回路、PMOSパス素子、およびサーマルレギュレーション回路を集積化しており、外付け逆ブロッキングショットキーダイオードが不要です。これにより、簡素かつ小型の充電ソリューションが出来上がります。

デュアルACアダプタおよびUSB電源入力には、代わりにMAX8903シリーズを使うことができます(図16)。

図15. シングルLi+セルスタンドアロンアプリケーション

図15. シングルLi+セルスタンドアロンアプリケーション

図16. デュアルACアダプタおよびUSB電源入力対応のシングルLi+セルチャージャ

図16. デュアルACアダプタおよびUSB電源入力対応のシングルLi+セルチャージャ

参考文献

1 Severns, Rudy, and Wittlinger, Hal, High Frequency Power Converters, Intersil Semiconductor application note 9208, April 1994.



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