SIMOでヒアラブルの寿命を延長する

2020年07月02日

要約

統合レベルが低い一般的なヒアラブル ソリューションは、PCB スペースと消費電力の両方の点で非効率になります。一方、SIMO (Single-Input Multiple-Output) アーキテクチャは、より小さなスペースでより多くの電力を効率的に供給できるため、ヒアラブル デバイスのバッテリ寿命の延長とフォーム ファクタの小型化が可能になります。

はじめに

ヒアラブル機器は、ワイヤレスステレオイヤホンとフィットネ スモニタリングが交差する新興市場です。しかし、小型形状の ため電子回路の小型化の課題が高まり、バッテリ寿命の課題 も増えます。この記事では、非常に小さいスペースで高効率 の給電を行うとともに、超小型ヒアラブル機器のバッテリ寿 命の延長を可能にする、革新的なパワーマネージメントシス テムを紹介します(図1)。

Figure 1. Small wireless earbuds challenge the size and battery life of electronics.

図1. 小型ワイヤレスイヤホンは電子回路のサイズとバッテリ寿命 の課題をもたらします。

標準的なパワーマネージメントの実装

標準的なヒアラブルのパワーマネージメントシステムを図2 に示します。パワーマネージメントIC (PMIC)はバッテリチャ ージャ、バックコンバータ、およびLDOを使用してセンサーに 給電します。第2のIC (デュアルLDO)は、マイクロコントロー ラ、Bluetooth®、およびオーディオに給電します。簡略化のた めに、外付けの受動部品は示していません。

Figure 2. Typical hearable power flow diagram.

図2. 標準的なヒアラブルの電力フロー図。

標準的な電力ツリー

標準的な実装の完全な電力ツリーを図3に示します。LDOを 多用する結果として、全体的な効率はわずか69.5%です。

Figure 3. Typical hearable power flow diagram.

図3. 標準的なヒアラブルの電力ツリー図。

標 準的なソリューションサイズ

図2の電力フロー図のすべての能動および受動部品が、図4 に示すソリューションに含まれています。

この標準的ヒアラブルソリューションは、約41.5mm2 のPCB面 積を占めます。比較的低レベルの集積、および複数のLDOと より大型の受動部品を使用している結果として、スペースと電 力の両面で非効率的なソリューションとなっています。

Figure 4. Typical hearable solution (41.5mm<sup loading=2)." class="img-responsive">

図4. 標準的ヒアラブルソリューション (41.5mm2)。

革新的ソリューション

図5のパワーマネージメントIC(MAX77650)は、センサー (3.3V)、マイクロコントローラ(1.2V)、Bluetooth、およびオーデ ィオ(1.85V)への給電に必要なすべてのバッテリチャージャお よび安定化を1つのチップに内蔵しています。この小型PMIC によって、複数のパッケージの使用によるスペースの無駄が なくなります。SIMO (単一インダクタマルチ出力)バックブース トレギュレータは、1つのインダクタを利用する3つのスイッチ ングレギュレータを実装し、必要なスペースを削減します。さ らに、高周波動作によって小型インダクタの使用が可能なた め、必要なスペースがさらに最小化されます。ノイズに敏感な 負荷用に1つのLDOが内蔵されています。簡略化のために、外 付けの受動部品は示していません。

Figure 5. The MAX77650 highly integrated PMIC.

図5. MAX77650高集積PMIC。

MAX77650の電力ツリー

図6は、このPMICの電力ツリーと各レギュレータの出力電圧、 負荷電流、効率、および消費電力(PD)を示しています。4つの 負荷のうちの3つは、高効率SIMOスイッチングレギュレータ を介してリチウムイオンバッテリに接続されます。第4の負荷 は、LDOによって2.05VのSIMO出力から給電され、90.2%の 効率(1.85V/2.05V)を実現します。全体的なシステム効率は 78.4%という優れた値です。

両方のソリューションの電力性能の比較を表1に示します。

Figure 6. MAX77650 power tree.

図6. MAX77650の電力ツリー。

表1. 従来のソリューションに対するSIMOの優位性
Parameter Traditional Solution SIMO SIMO Advantage
Li+ Battery Current 49mA 43.4mA SIMO saves 5.6mA
System Efficiency 69.5% 78.4% SIMO is 8.9% more efficient
Miminum Li+ Battery Voltage 3.4V due to 3.4 LDO 2.7V SIMO allow more discharge

SIMOソリューションの優れた効率はバッテリ消費の大幅な 低減につながるとともに、より広い動作範囲(最小2.7V)によっ てヒアラブル機器の非テザー動作時間が延長されます。

SIMOコンバータ

図7は、 SIMOコンバータのブロック図を示しています(インダ クタ以外の全部品を内蔵しています)。このアーキテクチャの 利点は、1つのインダクタを利用する3つのスイッチングレギュ レータを組み込むことができる点にあります。これらのスイッ チングレギュレータは最小限の損失で電力を供給し、巧妙な アーキテクチャによって各スイッチングレギュレータ用に1つ のインダクタを備える必要がなくなります。

Figure 7. SIMO power block diagram.

図7. SIMOの電力ブロック図。

インダクタ電流共有

ヒステリシスを備えた、断続電流制御モードで、インダクタは M1およびM4が「オン」の状態でVIN/Lのレートで電流を増大 させます。図8に示すように、設定された上限に達した時点 で、電流はM2およびM3_xトランジスタを介して選択された 出力に供給されます。出力への給電は、出力コンパレータに よって要求された順番で行われます。

Figure 8. SIMO current waveforms.

図8. SIMOの電流波形。

バックブーストアーキテクチャの特長

ヒアラブル機器を標準的なステレオBluetoothヘッドセットか ら差別化する主な特長の1つは、1つまたはそれ以上の光ま たは慣性MEMSセンサーを内蔵していることです。光センサ ーは、内蔵LEDからの光の反射を使用して血中酸素飽和度、 心拍数、またはその他のバイタルサインを測定します。十分な 光強度を生成するために、LEDは通常のリチウムイオンバッ テリより高い電圧範囲(4V~5V)で動作する必要があります。 設計者は、バックブーストをシステムに追加するか(もう1つの ICが必要)、もう1つのインダクタとより多くのコンデンサを追 加するか(貴重な面積と体積を消費)、または信号対ノイズ比 を犠牲にするか(不正確な測定値や劣悪なユーザー体験のリ スク)という、困難な選択を迫られます。SIMOバックブーストア ーキテクチャは、任意の1つの出力を所望の電圧(最大5.5V)に 設定してLEDを駆動し、センサー性能を最適化することによっ てこの問題を解決します。

より小型のスペースでより長いバッテリ寿命

小型のMAX77650 PMIC (2.75mm x 2.15mm x 0.8mmの WLP)は、SIMOスイッチングレギュレータおよび効率的にバイ アスされたLDOによって、最小限の損失で電力を供給し、PCB スペースは標準的な実装の半分以下です。図9のソリューショ ンレイアウトは、すべての能動および受動部品を考慮に入れ ています。

Figure 9. MAX77650 solution (19.2mm<sup loading=2)" class="img-responsive">

図9. MAX77650のソリューション (19.2mm2)。

総占有基板面積は、わずか19.2mm2 です。さらに、MAX77650 の消費電流はスタンバイモードでわずか300nA、アクティブ モードで5.6μAです。これによって貴重なバッテリ寿命が節 約され、充電間の使用時間を延長しながら可能な限り最小の バッテリを使用することができるため、この点でもシステムサ イズの削減に貢献します。

その他のオプション

MAX77651も同様のデバイスですが、より高い出力電圧範囲を必要とするアプリケーションに対応します。表2に、MAX77650と MAX77651の出力電圧範囲および電流の概要を示します。

表2. MAX77650とMAX77651の出力電圧および電流
Regulator Name Regulator Topology Maximum IOUT (mA) VIN Range (V) MAX77650 VOUT Range/Resolution MAX77651 VOUT Range/Resolution
SBB0 SIMO Up to 300* 2.7 to 5.5 0.8V to 2.375mV in 25mV steps 0.8V to 2.375mV in 25mV steps
SBB1 SIMO Up to 300* 2.7 to 5.5 0.8V to 1.5875mV in 12.5mV steps 2.4V to 5.25mV in 50mV steps
SBB2 SIMO Up to 300* 2.7 to 5.5 0.8V to 3.95mV in 50mV steps 2.4V to 5.25mV in 50mV steps
LDO PMOS LDO 150 1.8 to 5.5 1.35V to 2.9375V in 12.5mV steps 1.35V to 2.9375V in 12.5mV steps
*他のSBBxチャネルと共有の容量

結論

標準的なヒアラブルソリューションは集積度が低レベルの ため、PCBスペースと消費電力の両面で非効率につながりま す。MAX77650およびMAX77651 PMICは、独自のSIMOアー キテクチャによって、より小型のスペースでより多くの電力を 効率的に供給し、ヒアラブル機器のバッテリ寿命の延長と形 状の小型化を可能にします。

この設計ソリューションの同様のバージョンは、2017 年 8 月 3 日に Power Systems Design に最初に登場しました。



myAnalogに追加

この記事に関して

産業向けソリューション

最新メディア 20

Subtitle
さらに詳しく
myAnalogに追加