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閉じる堀場製作所がリアルタイムの赤外線ガス分析を実現、安全性/サステナビリティ/生産性の向上が可能に
ガスコンロに点火した時や自動車の排気ガスの臭いを嗅いだ時、嫌な思いをするというのはよくあることでしょう。腐卵臭を伴うそうしたガスは、大量に吸い込んだりしない限りはほぼ無害です。しかも、容易に気付くことができます。
それに対し、産業分野/製造分野において、あらゆる種類のガスを検出できるようにするのは決して容易なことではありません。しかも、ガスの問題は、場合によっては生産性や環境に対して大きな影響を及ぼすことがあります。つまり、より広範囲にわたり多様な問題を引き起こす可能性があるということです。
ガスの分析方法としては、赤外線を利用する手法が広く利用されています。多くの環境では、そうした赤外線ガス分析をリアルタイムで実施できるようにすることが理想です。実際、自動車、エネルギー、半導体などの分野で、そのようなことを実現できれば、安全性と生産性を高め、環境保護に向けた目標を達成することが可能になります。
そこでHORIBAグループの登場です。
堀場製作所の概要
事業内容
堀場製作所を本社とするHORIBAグループ(以下、HORIBA)は、広範な分野を対象として多様な計測機器/システムを提供する世界的な企業である。自動車の製造、プロセスや環境の監視、体外医療診断、半導体の製造などの分野の研究/開発や品質管理向けの計測ソリューションを提供している。
技術
HORIBAは、赤外線ガス計測向けの独自技術として赤外レーザ吸収変調法「IRLAMTM」を開発した*。この技術により、様々なガス計測の分野で速度、精度、汎用性に対する市場のニーズに応えている。IRLAMは、超高速A/Dコンバータ(ADC)など、アナログ・デバイセズが提供する超低ノイズの高速信号処理技術を採用している。
課題
熱、風、音、振動といった様々な条件に対処しながら、多様な環境における微量の高揮発性有害ガスを検出する。
目標
地球環境の保護、安全と健康の確保、エネルギー問題の改善に貢献する。
「HORIBAグループは、時代の一歩先を行くことを何よりも大切にしています。リアルタイム対応の赤外線ガス分析技術であるIRLAMを開発していた時、当社には、技術的な深い知見を提供してくれるだけでなく、リアルタイム計測向けのソリューションの設計を支援してくれるパートナーが必要だと考えました。そうしたすべての条件を満たしていたのがアナログ・デバイセズです。同社は、単なるICメーカーのレベルをはるかに超えた真のソリューション・プロバイダです。」
渋谷享司氏(博士)
IRLAM 開発マネージャ
業界の信頼を獲得したリアルタイム対応の赤外線ガス分析技術

- QCL(Quantum Cascade Laser)から放射された赤外光をヘリオット・セルに入射します。
- 分析の対象となるガスをヘリオット・セルに吸入すると、赤外光が長い光路内で何度も反射する間にガスに吸収されます。
- 吸収された赤外光の信号を検出器で取得し、分析するガスの濃度が算出されます。
製造環境では生産性を軽視することはできません。HORIBAはこのことを十分に理解しています。例えば、天然ガスの監視などを含めて石油化学分野のプロセスを監視できるようにすれば、生産性を飛躍的に向上させられます。そのことを強く認識しているということです。また、生産性の向上は、エネルギーや材料の消費量を削減することにもつながります。つまり、サステナビリティに向けた目標の達成を目指す企業を支援することが可能になるということです。
このことを念頭に置き、HORIBAは独自技術であるIRLAMの開発/実用化に向けて一歩を踏み出しました。IRLAMを利用すれば、天然ガスや石油を扱う化学プロセスにおいてガスを監視することができるようになります。ひいては生産性を高めることが可能になります。
IRLAMというリアルタイム対応の汎用ガス分析技術により、以下に示すような様々な業界において、ガスの成分分析の面で計測プロセスの効率を最大限に高めることができます。
自動車
排気ガスには環境にとって負荷になる物質が含まれています。自動車業界に対しては、それらを迅速に監視/制御することが求められます。電気自動車への移行が進みつつありますが、内燃エンジンについても、この重要な技術によって環境性能を高めることが可能になります。
エネルギー
水素エネルギーの生産時には不純物を検出する必要があります。HORIBAは、水素原料のガス化や改質プロセスに向けて、水素ガスの純度の計測、プラントへの組み込みエンジニアリング、水素の分離/回収/精製プロセスで使用する触媒材料の分析技術を提供しています。
半導体
IRLAMの高精度、高速な計測により、半導体プロセスで使用するガスのインライン監視が可能になります。それにより、リアルタイムの計測データに基づいてガスの濃度を微調整できるようになります。結果として、材料と時間の損失を削減すると共に、処理の精度、製造歩留まり、生産性を高めることが可能になります。
長期的なパートナーシップによって生まれたIRLAM
IRLAMは、最先端の性能を備えた状態で市場に登場しました。それよりもはるかに前から、HORIBAは、非常に微量のガスでも確実に検出できる高精度のシグナル・コンディショニング技術を必要としていました。同社は、その技術を求めて旧知の技術パートナーを頼りました。それが、アナログ・デバイセズが擁するセンシング・ソリューションの専門家たちです。アナログ・デバイセズは、業界をリードするシグナル・コンディショニング技術を提供しています。それらの技術を利用すれば、製造工場のような過酷な環境下で有毒ガスを検出するといった難易度の高い要件にも対応できます。つまり、物理的な世界とデジタルの世界の橋渡しを実現することが可能です。
アナログ・デバイセズとHORIBAの間には、20年間にわたるパートナーシップが存在します。アナログ・デバイセズは、HORIBAの主要なアプリケーション向けに先進的かつ高精度な技術を実現する重要なデバイスを提供してきました。例えば、高速かつ高度に光源を制御可能なレーザ・ドライバ回路に対するHORIBAのニーズに応えられるデバイスなどです。現在では、HORIBAはアナログ・デバイセズに対して大きな信頼を寄せています。その結果、両社の関係はよりオープンで協調的なものになりました。
HORIBAは、IRLAMの実現に向けて、アナログ・デバイセズの超低ノイズ、高速、高分解能の逐次比較型(SAR) ADCを信号処理用のデバイスとして採用しました。それにより、独自の機能を提供可能なソリューションを構築することができました。そのソリューションは、ガスの計測を伴う様々なアプリケーション向けに既に広く展開されています。
危険なガスを検出しようとする場合、最も重要なのは速度です。HORIBAのIRLAMではそうした高速な計測を高い精度で実現しています。IRLAMを利用すれば、従来はバッチ処理でしか対応できなかった様々なシステム/プロセスにおける計測関連の処理をリアルタイムで実施できます。つまり、監視/フィードバック/制御といった一連の処理をリアルタイムで行えるようになります。製造工場のような高いスループットが求められる環境では、そうした能力は極めて大きな役割を果たします。
IRLAMは、HORIBAが長年にわたって磨きをかけてきた赤外線ガス分析技術をより進化させたものです。あらゆる業界で使用できる新たな分析技術を中核に据えることで、感度が高く、干渉が少なく、小型で、信頼性の高い装置を実現することが可能になりました。
アナログ・デバイセズがHORIBAに提供した特筆すべきソリューション
設計上の課題 |
アナログ・デバイセズのソリューション |
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レーザの生成と駆動 |
濃度の演算アルゴリズムに必要なHORIBAの新たなQCL向け駆動変調 | 統合された波形発生器により、柔軟な変調方式を提供 温度の制御機能の統合により、サブシステムの実装面積を最小化 |
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信号処理 |
ガスの検出速度を向上するために、超高感度の光検出器には高精度/高速/低ノイズのシグナル・コンディショニング(100MHzで-1dBの平坦度)が必要 | 高精度/高速/低ノイズという信号処理の要件を満たせるのは、アナログ・デバイセズのシグナル・チェーン技術のみ | ||
アーキテクチャの設計 |
設計仕様を満たして高速/高精度の独自システムを設計するにはサプライヤの協力が必須 | 信号処理回路のアーキテクチャについては、アナログ・デバイセズの専門性の高いアプリケーション・エンジニアと連携することにより、パートナーシップをベースとした並行開発を実現 |
リアルタイムの赤外線ガス分析により、価値ある目標を達成
リアルタイムの赤外線ガス分析は、多くの分野において欠かすことのできない技術です。この重要な技術は、次世代のエネルギー源の開発においても役割を拡大し続けるでしょう。例えば、水素エネルギーの利用は、カーボン・ニュートラルな方向に向けて世界中で大いに注目を集めています。また、自動車を含むあらゆる製造分野では、よりサステナビリティの高い未来へ向けて戦略を構築しています。そうしたなか、ガスを計測/分析する方法は、労働環境の安全性と事業の成長を確保する上で非常に重要な役割を果たします。

現在、多くのメーカーは上記のような価値ある目標の達成を目指しています。HORIBAとアナログ・デバイセズは、そうしたメーカーを支援するという面で重要な役割を果たしたいと考えています。両社の技術を組み合わせることで実現されたIRLAMは、両社のパートナーシップの価値を証明するものだと言えるでしょう。HORIBAでは、大気や排気ガスなどに含まれる炭素酸化物濃度などの計測に利用されるNDIR(Non Dispersive InfraRed:非分散型赤外吸収法)と同様に、IRLAMがガス分析計の業界標準になることをめざしています。
高速化は、メーカーが成功を収める上で常に決定的な要因になるとは限りません。しかし、赤外線ガス検出の分野では、HORIBAのIRLAMがもたらすリアルタイム性によって革新的な変化がもたらされる可能性があります。
References
* IRLAMは、株式会社堀場製作所の日本およびその他の国における登録商標または商標です。
1 Divya Jacob、Shaziya Allarakha「12 Signs There Is Carbon Monoxide in Your House」MedicineNet
2 「Uses in Industry」NaturalGas.org、 2013年9月
3 Linda C. Brinson、 Francisco Guzman「How Much Air Pollution Comes From Cars?」HowStuffWorks、2021年7月